9.08
『適切な距離』
どんな映画かまったく知らず、夜な夜な大江崇充監督『適切な距離』 を見に行ってみたのですが、なんか最近こういう映画が流行ってるのかね。現実と妄想と芝居がいつのまにか入り交じり何がほんとの世界かわからなくなる系な。
まともな会話も交わされないギスギスした関係の大学生の息子と一人親の母親がお互いの日記を盗み読むことで奇妙なコミュニケーションを続けるうち母の描く理想の息子と息子が想像する見たことのない父親と現実の母子の、一体誰がどこまで本当なのかが混乱する、でも映画自体は一切取り乱すことなく、脚本も役者さんたちの演技も繊細な撮影も照明もほんとに自主映画とは思えぬ落ち着きっぷりと完成度の高さで、めちゃくちゃ安心して見られる。いやあこんな映画を作る若者が大阪にいたものかと驚いてしまいました。
ただ、その落ち着き方があまりにもお上品なもんで、画面の中で奇妙なことが起こってても全然怖くなく、どうしても監督さんが頭の中で考えたことの範疇を越えてない作品だとも感じてしまったのも事実で、贅沢を言えば出来杉くんなことが不満でもあった。唯一、これはホラーかと思える程本気で怯えたのは、映画全体に貫かれる惜しげもないマザコンっぷりだったけど、これがどこまで本気なのか冗談なのか私にはまったくわからず、その混乱さえも作り手の意図だとしたらまんまと引っ掛かりました。あの理想の息子とか(最終的には母親が望むであろうと息子が考える理想の自分なわけで)、ないわあ。