『ヴァンパイア』
私自身特に熱心な岩井俊二ファンと言うわけではないけれど、既に賞味期限切れなの?とつい聞きたくなってしまうくらいに周りでの評判をまったく聞かない8年振りの長編新作『ヴァンパイア』 を見てみた。確かに平日とはいえ、サービスデーの19時の回にしては50人弱しか入ってなかった。けど、作品はとても良かった。
いわゆる心の病なのかホンモノのヴァンパイアの子孫なのかよくわからない冴えない主人公(職業は高校教師)が、インターネットで知り合った自殺志願者(主に美少女)の自殺を幇助して人間の血を手に入れる、という展開を淡々と追いかけるとにかく地味なお話なんだけど、作品そのものの手触りがとても独特で、なんと言うか、例えば『桐島、部活やめるってよ』では切り捨てられていた「外の世界」だけで全てが成り立っているような感じ。登場人物たちがふらふらと彷徨ってる姿が、生きている人間でも『桐島、』の自主映画ゾンビでもなく、ロメロのゾンビみたいに、ゾンビそのもの。あるある的共感できる要素ゼロ。
ただ、確かにいい映画なんだけど、もちろんボケた母親が背負ってる白い風船のモチーフとか監督自身が手がけたという甘ったるい音楽には相変わらずイタいなあ思ったし、突然真横になるカメラなんかは意味不明、レイプシーンや森の中でのヒルとの格闘にはあまりの変態っぷりに呆れつつ爆笑(褒め言葉)。
ただ、そういう部分が生理的に苦手って人が多いのもわかるし(私もつい最近までそうだった)、岩井作品って賞味期限切れ以前に「映画」じゃないよねというありきたりな批判もわからなくはない、がしかし、「映画」に対してなんの疑いも持たずに無邪気に誠実ヅラしてる西川某とか山下某とか『モテキ』某とか『告白』某なんかよりは、比べるのも失礼なくらい誠実に変態してて、映画に似ている映画なのかもしれませんが、私はこちらを断固支持。自殺志願者の前では自分の名前をずっと伏せていた主人公と「レディバード」(ダサイ…)と名乗る金髪の少女が互いに本名を打ち明けるシーンに深く感動、うっかり泣きかけた。なんと浅田彰センセイもご推薦。