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12.29

『ケイコ 目を澄ませて』

イブの夜に見に行ったら若くてオシャレな若者(男子)で大盛況、それだけで嬉しくなった三宅唱監督『ケイコ 目を澄ませて』だけど、見たらもっと嬉しくなるような立派な作品でございました。今までの過去作とは明らかに違うからびっくりしたけど。
元プロボクサー小笠原恵子さんの自伝を元に聴覚障害のボクサーという女性ケイコの物語。
ボクシングジムに響く音も荒川区の街や川を捉えたカメラもすべてめちゃくちゃ良かったけど(ここ数年撮られた映画の中で初めて「フィルムで撮って正解!」と思えた)、やっぱり主演の岸井ゆきのが凄まじかったわね。数年前にはしょーもない映画で話題になってしまって可哀想…と思ってたけど、女優ってすごい。前半ほとんど仏頂面でただ怖いだけなのに、後半どんどん笑顔が増えていって可愛いこと可愛いこと。あの声も良かった。
あの空間やそこにいる人たち全員がやたらと良いボクシングジムの、大阪弁の三浦誠己も、『母性』ではクソみたいな役やらされてたけど、今回は打って変わってかっこよくて一安心。いやしかし仙道敦子の声が若過ぎてびっくり、私の最愛のドラマ「卒業」(90年)の頃から変わってない気がする。何故だ。
特別にドラマチックな展開でもないのに、荒川区で生きるケイコの一挙手一投足にこちらが目を澄ませて音を感じてその動きに集中してるだけで、なにひとつ説明されない彼女の心情なんかより、丁寧に撮られた街や音や人の姿だけで俄然ドラマチックで心震わせるものがあると再確認させてくれました。
今年は色々哀しいことも続いて、もう「早く新作を見たい」と思える監督がいないな…とか思ってたけど、昨日と今日で、若い人たちの素晴らしい映画を見れてわたしゃ嬉しいよ。
でもただひとつ、ジムの会長三浦友和がケイコにピンクのキャップをかぶらせた瞬間、継承とかトニスコとかよりも反射的に「おっさんの帽子ってめっちゃ臭そうで絶対いらんな…」と思ってしまった私に彼らの映画を見続ける資格があるとは自分でもあんまり思わない。