『メイ・ディセンバー ゆれる真実』
この映画を見たときには(8月アタマ…)45歳の誕生日直後人生初のコロナに罹患しヒーヒー言うことになるなんて1ミリも想像してなかった、トッド・ヘインズ監督『メイ・ディセンバー』。映画も現実も理解しようなんて思うことが間違ってた、と痛感するような映画でしたね、多分(記憶曖昧)。「メイ・ディセンバー」って言葉がアメリカでは「歳の離れた恋愛関係」って意味だと今回初めて知った。
96年にアメリカで実際に起こった、家庭のある36歳の女性と13歳の少年の不倫関係、逮捕された女性は獄中で彼の子を出産、出所後結婚、というスキャンダラスな事件。その事件の映画化にあたり、主人公を演じることになったナタリー・ポートマン演じる人気女優エリザベスは、映画のモデルであるグレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)の自宅を訪れ、彼らと行動を共にする。
舞台となるサバナの爽やかだけど湿度の高そうな空気、ジャーンと大袈裟に流れるドラマティックな音楽、かつてはタブロイド紙を賑わせたとは思えないほどの幸せそうな家族や近所の人々。どこかが歪。明らかに何かがずっと張り詰めているのに最後までその糸は切れることはなく。
少女のような振る舞いや服装をしながらふと支配的な表情を見せるグレイシーは犯罪者なのか純愛を貫いた女なのか、役のために自宅まで入り込むエリザベスは仕事熱心なのかただの図々しい奴なのか…。明らか子どもたちにウザがられてるのに…。
それでも私はやっぱりあの夫の表情や趣味を見て同情を禁じえず、現実ではのちに二人は離婚したと知りホッとしてしまった凡人やけど、「幸せな家庭の幸せな主婦」の実情が、搾取される女の苦しみではなく、こんな形の映画も初めて見た気がする。夫婦は難しい。難しいぞ。
長年ケイリー・ライカート監督のプロデューサーとしても活躍してるトッド・ヘインズさんの女性への態度は非常に信頼してるが故に、ここに登場する二人の女優が明らかにやべー奴であることが大変頼もしくて嬉しかった。