新旧名作デー
特にこだわりがあるわけでもなくただ機会がなかったという理由だけで今までちゃんとした活弁付き無声映画を体験したことなかったワタクシ。今回のフィルムセンター小ホールの特集がいいチャンスだわと行ってみることに。
溝口健二監督『滝の白糸』(33年)弁士は澤登翠さん。こんな私でも名前くらいは知っている有名な方。ただ活弁するだけかと思ってたら上映前にちょっとしたトークもあったりして新鮮。
映画は、序盤の白糸姐さんと欣弥が運命的な再会を果たす夜の橋での長いやりとりが、幻想的な映像と白糸のなんだかいじらしくて可愛い動きや話し振りに「あら素敵な恋愛映画」なんて胸キュンしてたら、それ以降ひたすら堕ちて堕ちて更に堕ちて、最終的には「もうやめてー!」と叫びたくなる程の悲劇になる、ものすごい裏切られた感有りの名作。一度しか会ったことのない男に惚れ抜いた女の物語。切ない。でもそれが、状況が悲惨になればなるほど主演の入江たか子が美しく見えて、2人が最初の橋以来の再会を果たす最後の牢獄に入ってるところの柵越しの横顔なんてサブイボものの綺麗さ。女優って怖いですね。いや、女優にこんな顔させる映画監督って怖いですね。大ホールでの溝口特集が楽しみなような恐ろしいような。
活弁は、思ってたよりずっとすんなり耳に入って面白くて良かった。弁士さんによってだいぶ違うものらしいですが、やっぱりベテランの方だからなのかなんの不安も感じず安心して聞けました。たまにはいいものですね。あと、映画の中で初めて水芸というものを見てちょっと感動した。
見た過ぎる映画を見るのがなんだか怖くて上映終了ギリギリまで引っ張ってしまう悪い癖(それでたまに見逃したりする…)を克服すべく、時間も場所も丁度良かったので、急遽侯孝賢監督最新作『百年恋歌』を今のうちに見ていくことにする。
もう、ねえ、期待通りとか想像以上とかじゃなく、冒頭のファーストカットを131分間続けられても私は文句言わないよ、まじで。が、そんな魅力にも溢れまくりつつ、でもそんなところじゃ収まらない。
時代の違う台湾(11年66年05年)を舞台にした3話のオムニバス映画(順番は66→11→05)。でも主演の男女は同じ役者が演じているという形式の作品で、どれが一番良いとかの問題じゃないのは重々承知ながらも、死ぬ程捨てがたい要素を考慮しつつも、個人的に最も度肝抜かれたのは3話目(この3話の関係の微妙さとかも、考えだすとすごいことになるけど割愛)。
1話目の『風櫃の少年』的な空気の中でのかわい過ぎる恋愛も、2話目の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』的な無声映画(じゃないけど)の大人な恋愛もモチのロン興奮しまくったけど(特に1話目のラストとか、今時相合傘で本気で泣かすか!)、やっぱり、60近いおっさん監督(しかも若い時はかなりワルだったっぽい)が今の時代にこんな男女を主演にした今の恋愛映画が作れるってのは、いくら奇跡を呼ぶキャメラマンを相棒にしてるとは言え、他にはいないと思う(日本の監督なら絶対ラストにワンピースとか着せるぜ)。勿論それは若い人が撮る今どき感とはまた全く違うモノやし。すごいよホウさん。
それにしてもああ、スー・チーのあの顔よ、あの声よ。個人的に大好きな『ミレニアムマンボ』、やっぱりシネマヴェーラで見直しとけばよかったなー。
久しぶりに上映中に絶対もう一回行こうと心に決めた映画。サントラ買い逃したし。しばらくやってるみたなので、お時間のある方は見てみたらかなりよろしいかと思われます。