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3.05

『夢十夜 海賊版』

春の嵐が暴れる中、「狼少女ジェーン」の初日に駆けつけた速水真澄の如く(初日じゃないけど)身体を濡らしくせ毛をうねらせながら吉祥寺バウスシアターに『夢十夜 海賊版』を見に行く。

日活の正式『夢十夜』に対抗(?)して作られたこの作品(日活版は未見ですけど…)、10人の監督たちによる10分程度のオムニバス作品、なんだけど、監督たちのプロフィールを見てるとみんな若いのな。80年代生まれがゴロゴロ。作品の良し悪し以前に、こんな若い人たちが自分たちで動いて劇場公開にまでもっていくそのパワーにまず敬意をはらいたい、

が、いざ作品を見ると、やっぱり10分前後で映画を成立させるって年齢の問題じゃなく難しいよなーと痛感する。無理矢理物語を語ろうとするとセリフや映像自体が説明的になってしまってつまらなかったり、物語を放棄しようとすると映画というより「映像作品」みたくなってしまったり。正直、10分見るのがいっぱいっぱいみたいな作品も幾つかありましたが、具体的には言いませんが、言った方が良いなら言いますが、そんな中でも勿論「お!」と思えるものもありました(偉そうでごめんなさい)。私の中では第五、六、八夜が面白かった(全てに友人知人が絡んでるってのはほんと関係なく…)。

船曳真珠監督による第五夜は、こんな限られた尺の中でSFラブストーリーという完全に作られた世界を成立させた力量に驚く。ロケーションにも妥協が見られず、もっと長編バージョンも見たいなと思った。

高井大樹監督による第六夜は、改めて杉山彦々という役者の凄さを実感させられた。彼がただ1人で動いてるだけで画面が成立するという事実。故に中途半端な話の展開がもったいなく、もっと彼に委ねても良かったんじゃないかと思わなくもないけど(故に彼以外の役者だと成立しない映画だとも思うけど)、これはこれで良し。この監督が役者に頼らない作品を撮った時にどうなるかが気になる。

そして佐藤央監督による第八夜。これは、キャメラマンが芦澤明子さん(黒沢清監督『LOFT』『叫』)だという技を抜きにしても(勿論カメラ自体が群を抜いて素晴らしかったが)唯一「ああ、映画見てるな」と思える作品であった。限られた時間の中で何を伝えるか、という問題に対して一番真摯に向き合ってるなと言うか、映画が自意識の中で留まっていないと言うか。役者の芝居、廃墟と鏡を使った演出、上手いにゃあとひたすら感心。これのためなら1300円払っても文句は言わないさ。次回作に期待大ですね~。

と、本当に現在の若者が映画を撮るということに対する意識が色々垣間見えてとても充実している作品であります。古典的なアメリカ映画も流行のハリウッド映画も見る必要はあると思うけれど、これから世界を作っていくだろう人たちが今作っている映画、こういうものを抜きにしてあーだこーだ言う時代もそろそろ終わりな気がする。是非一度ご覧になることをお勧めします。