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12.23

『無言歌』

そして昨日の反動で、本日は思いっきり真面目に振り切ってワン・ビン監督『無言歌』 を見に行ってしまった。世間が一年で一番浮かれてる日の夜にこんな映画を見る物好きなんて私くらいだろうと思っていたら結構お客さん入っててちょっとびっくり。同志よ。
今まで『鉄西区』や『鳳鳴ー中国の記憶』などの優れたドキュメンタリー映画を撮ってきた監督の初長編劇映画作品、1960年の中国で政府に対し批判的な発言をした人々が「右派」と呼ばれ弾圧され、酷い環境の収容所に囚われ強制労働させられた歴史と人々についての映画。
まるで『GERRY』の舞台のような、中国とは思えないだだっ広い砂漠に、マジで死にかけ5秒前みたいなボロボロの男たちがほとんど言葉も発さずショベルを持って穴を掘り、蟻の巣みたいな豪で横になり、水にしか見えない食事を啜り、耐え切れず人肉や他人の吐瀉物を食い、でも疲れ過ぎて死んでいく、その様がまるでワン監督のドキュメンタリー映画の一部かと錯覚する程余計な感情を挟ませない映像で描かれ、常に背後で吹雪いてる砂嵐の音以外音楽は流れず、しかしもちろんフィクションなんだからめちゃくちゃ細かく演出されてるということが凄いんだけど、だからそこに号泣しながら旦那の墓を掘り返そうとする女が現れてもそれすらも歴史の一部のように見える、恐ろしい映画でございました。女がどこにあるのかもわからない墓に向かってひとり砂漠を歩くカットは、ただの後ろ姿なんだけどめちゃくちゃかっこよかった。
中国の歴史になんてとんと疎いし、こんな惨いことが行われていただなんて今回初めて知ったけど、67年生まれのワンさんが今こんな映画を作ったことがどういことかは理解出来てたいものです。
と、素晴らしい映画だったことは確かなのだが、クリスマス前夜にひとりで見に行く映画じゃなかったことも確か。観賞後有楽町の浮かれた街並と酔っ払いたちがだいぶしんどかった。