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6.09

『はい、泳げません』

2021年のベストは何かと聞かれたら、食い気味で「『花束みたいな恋をした』!」と答える者としては、同じ製作プロダクションが作ったという渡辺謙作監督『はい、泳げません』はたいそう楽しみにしていたので、公開前に試写で見れて有り難き幸せ。
大学で哲学を教えている泳げない男、長谷川博己演じる小鳥遊(たかなし、って読むってみんな知ってた?!)雄司は、とある理由で水泳教室に通い始め、そこで水の中の方が生きやすいというコーチの薄原静香(綾瀬はるか)と出会ったことをきっかけに、徐々に人生が動き始める、的な物語。『花束〜』の、ある時代のあるジャンルのある世代にしかわからない感覚を通して普遍的なことを描くスタイルとは真逆の、当たったら負傷レベルのド直球な映画であった。
大体水泳教室に入会するときに、「もし僕が泳げなかったらどうなりますか?」という問いに「大丈夫、私が助けます。」なんて言われたら即胸キュンでそのふたりに恋が始まるんじゃないかと思ったけど、もちろんそんなペラい話ではなく、前半は泳げないくせに屁理屈ばっかり言って自分を正当化する小鳥遊に対し、チャチャを入れてふざける水泳教室のおばさまたちのやりとりが楽しく、カナヅチなハセヒロが可愛いし、コメディ映画なのかと油断して笑うも、だんだんと明らかになっていく小鳥遊が泳げない理由。想像以上に話が重くなっていくもそこからの必死で浮き上がるためにもがくハセヒロの真摯な姿が胸熱で泣ける。私もアザラシと泳いでみたい。いやアザラシも泳ごうとは思ってないのか。
そのハセヒロの浮上に大きなヒントと助けをくれる綾瀬はるか。資料には「人魚姫」って言葉が使われていたけど、ほんまに天使か女神かってくらいの存在で、そんな役をできるのははるかクンしかいないと思うし、それはそれでいいんだけれど、誰かもうちょっと彼女のことも気にしてやれよ…と思わなくもなかった。
でもなんやろ、こういう笑って泣ける真面目な日本映画、ムダに不幸ぶらずにトラウマがちゃんと癒やされる映画を久しぶりに見た気がするので楽しかった。