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11.10

『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』

久しぶりにアメリカの良質なラブコメを見たあとのような爽やかな気持ちになれて嬉しかった、穐山茉由監督『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』。笑えて泣けるポジティブな、地に足のついた立派な映画。
過剰な派手さがあったりキラキラした盛り上がりがあるわけではなく、一見地味めな映画のように感じるけど、穐山監督は前作(『シノノメ色の週末』)でもそうだったが、女性が労働しながら生きていく姿(=主体性を持って生活する姿)を適切な演出と距離感で撮るのが本当に上手い。女の繊細さや複雑さ(はたまた狂気か)に逃げず、こんなことできる監督、何気に今の日本にいないと思う。映画ばっかり見てる奴らはもうダメだ。
おっさんと元アイドルが住むと聞いて、ダメなおっさんが大好きな「中年男と若い女の話かゲヘヘ」的な気持ち悪い話では一切なく、Z世代が好まない性的描写や性的関係もほぼ皆無(「お店紹介しようか?」の一言で完璧)、むしろ井浦新演じるおっさんは「おっさんはこうあるべき」というロールモデルが女性(私)から見て素晴らしい(相手の話を聞く、ただ聞く。クソバイスも説教も自分の武勇伝も挟まずただ聞く/自分のことは自分でする/でかい声で話さない…など他多数)ので、おっさんの自覚がある奴らはこれを見て徹夜で勉強するべし。「でも言うてもイケおじ(井浦新)やろー?」と言いたくなるけどしかし、ここでのアラタの非アラタ化は凄い。マジで冴えない、オシャレでもない(部屋着ヤバ過ぎ)、超キレイになった安井豊みたいな感じ。アラタ演じるおっさんが若い女と同居することに対してどう思ってるのかはっきりは描かれないけど、見進めるうちに「ああ彼は男社会に嫌気がさした、男の生きづらさを抱えた人間なんだな」とわかってくるのが良い。おっさんを見捨てない優しさよ。私にはないけど。
元アイドルという自意識を拗らせ経済的にも精神的にも詰んだ主人公を演じる深川麻衣という女優さん、初めて見たけど表情がコロコロ変わって、妙齢の女性の色んな感情をコミカル且つ真剣に表現するのがお上手で、とても良かった。結構マジでウザい性格ながら、彼女が同居人や友だちと過ごすうち親友の結婚を心から祝えるようになる瞬間はちょっと泣いた。でも「水タバコ屋で出会った男にロクな奴がおるわけないやろ」と爆笑(そういう笑える単語のセンスがやたら冴えてる)。絶対みんなも見た方がいい。