『コール・ジェーン』
60年代アメリカで中絶が違法だった時代の実話を元にした物語と聞いて、映画化もされた(見逃した…)アニー・エルノー「事件」みたいな話かと思ってたら全然違った、フィリス・ナジー監督(『キャロル』の脚本家)『コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話』。めちゃくちゃ面白かった。撮影は16ミリ。
見るからに仲良しの夫婦、裕福で幸せな家庭の白人主婦ジョイがパーティーの途中で反戦デモを目撃する冒頭から、彼女自身が違法に中絶するしか選択肢がない現実を目の当たりにしたことで、そこからジョイが覚醒、彼女の世界が一気に広がる流れがほんとに見事で気持ちいい。男によって白痴化された女が知識を得ることで自分の性と権利に目覚め仲間と世界を広げる、という『哀れなるものたち』や『春画先生』が正しい世界に転生したような映画でございます。
女性のリプロダクティブヘルスを真剣に語りつつ、60年代アメリカのポップな雰囲気とイケまくってる音楽のおかげか重苦しかったり説教臭さは皆無、違法中絶を提供する団体「ジェーン」を率いるシガニー姐さんも安定のかっこよさ(あの野球拳みたいなん何…)。でもあの無機質な手術室の恐怖感はめちゃくちゃリアルだったり、女性の権利に人種や格差まで絡め込むとか、アメリカ映画はやっぱりすごいなあ。病室にお花があるのはいいね。多分医学的にアウトやけど。
ウブだったジョイがあれよあれよと活動にのめり込み、まさかあそこまでいくとは想像以上だったけど、どんどんいきいきして逞しくなっていく姿が、たっぷりとしたブロンドヘアによりだんだんジーナ・ローランズに見えてきたのは私だけでしょうか。
女性のための行動が法を犯すことに繋がり家族にバレてさあ大変となるけれど、家族のためだけに生きてた妻を愛する夫は別に悪人なわけでなく、その辺はサラッと描く上手さも感動。ハッピーエンドで素晴らしい、これは1968年アメリカで実際に起こった話。でも2024年の日本にも「ジェーン」があれば公衆トイレでひとり出産した挙句逮捕されるような女性がいなくなるのにね…と結局はこの国のせいで暗い気持ち。辛。