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4.07

『美と殺戮のすべて』

恥ずかしながらナン・ゴールディンは名前くらいしか知らなかったんだけど、写真家ナン・ゴールディンについてのドキュメンタリー、ローラ・ポイトラス監督『美と殺戮のすべて』を見てみた。見てよかった。
依存症で死亡の可能性もある鎮痛剤「オピオイド」の販売しながら、世界中の美術館に寄付を続けるサックラー一族に対し、メトロポリタンやルーブルで仲間たちと抗議活動を続けるナン。美術館の中で横断幕をさげたりコールしたりダイ・インしたり。まさに先日国立西洋美術館で行われたデモを思い出すもので、今日本で活動してる人たちにとっても心強い作品だと思う。あんなもの無駄だと言う奴らはこれを見て一生黙っといてほしい。
と同時に、ナン自身の声で語られる彼女のこれまでの人生。若くして家族と離れ、7、80年代のNYアンダーグラウンド、セックス&ドラッグにどっぷり浸かり、自分にとっての居場所だったクィアカルチャーにカメラを向けて評価されるも、彼らを襲うエイズの出現と偏見。そして姉の自殺。
自分が写真界の権威と理解しつつ美術館を糾弾、抗議を行うナンの姿はマジかっこいい、大人の鏡、最高。なんだけど、若い頃の記憶はマジで過激でハード、よくこの人この歳まで生きれたな…と思ってしまうほど。薬物中毒や売春の過去、大好きだった仲間たちの早逝。それだけでも十分きついのに、さらに個人的な姉の死、幼い頃の記憶、今の年老いた両親を冷静に見るナン、自殺の真相。それがマジで辛くてしんどいんだけど、それらを経て今「人の痛みをないことにするな」と自身の地位や名誉を顧みず声をあげ、行動に出て戦って、実際に社会を変える。個人的な記憶と社会的な怒り、その連なりの美しさに震える。
もちろん監督の演出が見事なのもあるけれど、やっぱナン・ゴールデン自身が超絶的にかっこいい(ちな、監督もナンさんも女性ね)。ただ残念なことは、写真に疎い私にはナンの作品の価値がイマイチわからないところ…。