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6.04

『からかい上手の高木さん』

「クセになる人が続出! 新世代の恋愛映画の名手 成田凌も恋の相談!? 「恋バナ」が彩るユニークな創作現場」と宣伝されていたTBS「情熱大陸」の今泉力哉監督の回を見ていたら、確かに、番組冒頭で俳優の成田凌が恋愛相談をしていて、また、今泉監督は、地方に行ったときにはSNSで繋がっている(若い)ファンたちと飲み会を開いて、彼女あるいは彼たちの恋愛話に耳を傾け、さらには、「映画と笑いと恋愛相談」というイベントに登壇して、客たちの恋愛相談に応えたりもしていたので、なるほど、これは確かに「恋愛」にとても精通している監督に違いないはずであり、タイトルから想像していた「何年にも渡ってからかってくるやつとか超ウザくね? ある意味でハラスメントやろ」という雑な先入観は裏切られるはずだというか、ねちねちとした「からかい」の話ではないのだろうと考えをあらため――過去の監督作は数本しか見てないのだけど――今泉力哉監督『からかい上手の高木さん』を見てみたところ、舞台となる香川県・小豆島の瀬戸内海や山々を背景に、登場人物たちがずっと恋愛話や恋愛相談をしている映画だった。

中学時代に「からかい」「からかわれる」関係だった高木さん(永野芽郁)と西片(高橋文哉)、ところが高木さんがパリ(フランスでええやろ)に引っ越して離ればなれに。そこから10年、ふたりが地元で再開するところから映画は始まるのだが、10年ぶりに同級生が集まっているときも、登校拒否をしている生徒への対応の話をしているときも、友人の結婚式に出席したときも、登校拒否をしている生徒と二人で話しているときも、あるいは、自分が登校拒否のきっかけを作ってしまったかもしれないと悩んでいる女生徒と面談しているときも、その女生徒からの相談にどのように応えるべきだったのか上司の先生に相談しているときも、話題の中心は常に恋愛(あるいはそれに伴うこと)である。ちなみにここで指摘した「恋愛」は「好きな相手に気持ちを伝えるべきか否か」と言い換えることができるのだが、いずれにせよ、その話をずっとしていた。つまり、『からかい上手の高木さん』は、恋愛(気持ちを伝えるべきか否か)について話し、恋愛(気持ちを伝えるべきか否か)について悩み、恋愛(気持ちを伝えるべきか否か)について相談し、恋愛(気持ちを伝えたり伝えなかったり)する彼あるいは彼女たちを、「恋愛」に精通するとされている映画監督が描いた「恋愛映画」なのだった。

ところで、『〜高木さん』を見ながら思い出していたのは三ヶ月前に見た古厩智之監督『PLAY!~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』のことで、なぜなら『PLAY!』は、小豆島がある香川県のお隣、徳島県の小さな海沿いの街が舞台で、地理的な条件が非常に近いこともあり画面に映っている瀬戸内海や山々の風景が『〜高木さん』にとても似ているのだけど、しかし、撮られた映画はまったく似ていない。『PLAY!』はジャンルとしては「青春映画」なので、その一部として「恋愛」も描かれているが、それ以外のこと、独自の地形を生かした演出、住人たちが生きている時間、家族や友人たちと築いてきた関係、そして、それらに関わるひとりひとりの人生とその背景、あるいは、それらと決して切り離すことができない残酷さが、さりげないけど明晰な演出によって描きだされているのだ。いいかえれば、『PLAY!』には、素朴なリアリズムではなく、『PLAY!』独自の〈リアル〉=青春=限られた特別な時間=eスポーツにハマった高校生たちが全国大会に出場する姿が映しだされていて、その姿を見ているうちに私はすっかり感動し、うっかり涙を流してしまうのだった。というわけで、いつのまにか文字数がだいぶ増えてしまったので、唐突ですが、このあたりで今日の日記は終わります。