『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
世間では微妙な評価らしい『ダウンサイズ』(17年)が異様に好きな私はアレクサンダー・ペイン監督の新作と聞いて内容もロクに知らぬまま『ホールドオーバーズ』を見て、もう優しい気持ちで胸いっぱい。めっちゃ良かった〜。
全寮制の男子校、クリスマス休暇に帰る場所のない生徒のアンガス、教師のハナム、料理長のメアリー(ホールドオーバーズとは残留物とか留任者という意味)。年齢、性別、人種も違う3人が過ごす冬の数日間の物語。
冒頭、映画会社のクレジットから古めかしいデザイン、映画が始まってもいつの時代が舞台なのかイマイチはっきりしないのだが、終業式で校長がメアリーの息子の死を悼み、だんだんとそれがベトナム戦争での戦死なのかとわかってきて、これが1970年代のアメリカなんだと気付く。
生意気な生徒、偏屈で古代史馬鹿の教師、息子の死の悲しみを抱え続ける黒人女性、はじめは反発し合ってた3人が交流を重ねてだんだんと心通わす、そんなん泣けるやん…といきたいところ、「ここ絶対泣くシーン!」と覚悟するとばっさりあっさり次にいく寸止め感がたまらん。余計な余韻を残さず、誰かの感情が爆発するような感動シーンを作らず、それでも見終わったときにはたまらず涙涙。すごい。
心打たれた場面はいっぱいあるけれど、個人的にはやっぱり偏屈教師も自らも傷ついてる料理長も、最終的には子どもは大人が守るものという当たり前のことを精一杯アンガス君に対して実行してるところが良い。ボストンに移動してアンガス君がハナムに見守られながらスケートをしてるシーン、「年頃の男の子がひとりでスケートして楽しいんかいな」と思いかけたけど、彼はまだお酒も飲めない、お父さんが恋しい少年なんだもんね。スケートってだけでテンション上がって当然よね。だから彼の人生を過去ではなく未来に向けるために、ラストハナムがとった行動に涙涙。
やっぱりアメリカ映画っていいなーと思える音楽のかっこよさ、これがデビュー作とは驚きのアンガス演じるドミニク・セッサ君、斜視の回収も素晴らしいポール・ジアマッティ、アカデミー賞も当然納得なダヴィン・ジョイ・ランドルフ(38歳!?)、全部素晴らしかったです。満足満足。
サービスデーだからか池袋の劇場がほぼ満席だったけど、池袋の観客(失礼)には最近ほとんど他に見ないこういう映画(地味に時系列で物語が進んでいって、その中で変化する人間関係に感情を揺さぶられる、じっくり見せる映画とでも言うか)がどんな風に受け止められてるのかが気になったりした。