『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』
あれは若い頃、監督のデビュー作『ポケットの中の握り拳』(65年)の中で母親を殺した主人公たちが庭で歓喜のダンスを踊っているのを見て、「あら素敵」と胸キュンして以来マルコ・ベロッキオ監督は大好きなので、『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』(22年)にチャレンジ。全六章前後編合わせて340分となかなかのボリュームですが、これがまあ見てびっくり、最初から最後までずっと面白い、まったく飽きない、なんなら全編通しで見たかった、くらいの満足度で、監督84歳?デビューから57年?、ほんとに凄い。画面のどこをとっても超濃密な緊張感、なんというか、気合いが違う。
1978年のイタリア、3月のある朝キリスト教民主党党首で元首相のアルド・モーロが極左グループ「赤い旅団」に誘拐される。事件が終結するまでの55日間を、様々な立場で<外側>から事件に関与した人々の視点を6エピソードで見せてくれます。同じ事件を扱った『夜よ、こんにちは』(03)は爆音上映で見たはずなのに、あんまり内容を覚えていない…(かっこいいシーンは頭に浮かぶんだけど…)。
家族が寝静まった深夜にひっそり目玉焼きを焼いて食べる主人公モーロのかっこよさから、前編の内務大臣コッシーガの苦悩や教皇たちの画策(お腹の出血、何やったん…)政治の世界のあれこれも夢中で見たんだけれど、やっぱり後編の方がアガったかな。
ママさんテロリストの情熱と落胆と母としての苦悩、私もこれからは歓喜の瞬間廊下をダッシュしようと決意(あんな演出よく考えるよな)。夫を誘拐された首相夫人の不安と苛立ちと焦り、毅然としててその辺の政治家より俄然かっこいい。真逆の立場のふたりの女性に強く惹かれました。
六章(ラスト)については監督が色んなところで話していたのでそれを読んで納得するしかないけれど、歴史は辛いわね。
ところで。イタリアにはミラノに旅行に行ったことがある程度で大した知識もないんだけれど、この映画を見る限り当時の若者たちは政治に熱い情熱と強い関心を持って戦ってるっぽいのに、なんで今のイタリアは若者が5人に2人しか働かないといういい感じにユルい国になっているのか、この数十年の間に何があったのか気になる。