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1.28

『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』

今年に入って初めて知性を感じる日本映画を見て心底ホッとした、近藤亮太監督『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』。総合プロデュースは清水崇、監督の恩師は高橋洋と、正当なJホラー。とはいえ、私個人はJホラーに特別な興味を持ったことはなく一般的にヒットしてる作品を数本見てる程度なので、Jホラーが他のホラーと何が違うのかもよくわかっていない。
子どもの頃一緒にかくれんぼをしていた弟が失踪し現在も見つかっていないという過去を持つ主人公・敬太の元に母親から送られてきた古いビデオテープには弟がいなくなる瞬間が映っていた。霊感のある同居人・司、敬太を取材する記者の美琴と3人は弟が失踪した山に向かう。
静かに進む前半、落ち着いた演出と丁寧な編集に特にホラー要素はないのだが、敬太と司が敬太の実家に向かったあたりから、「え、今の何?」みたいなカットがじわじわと映画を不穏にしていき、派手な仕掛けやジャンプスケア(今回初めて知った言葉)はないのに十分不気味さが伝わる上手さ。細かい仕掛けは色々あるけど、そのさりげなさも上品で。今の時代にビデオテープとカセットレコーダーで最後まで頑張るのも結構凄い。
幽霊の描写は、我々にはやや見慣れたものと映るけど十分怖いし、これ今の若い人が見たら相当怖いだろうなと思うと非常に正しい継承だと思います。
しかし、この映画には幽霊より怖いことが映っている。それは、敬太と司が実家近くで適当に入った民宿、そこの息子が敬太とふたりで話をするシーン。この息子演じる役者さん(吉田山羊)が本当に地味目なビジュアルで完全に油断していたのだが、彼が亡くなったおばあちゃんから聞いたその山にまつわる話を始める、長台詞でひとり話し続ける様子をワンシーンで見せる。彼の話の上手さとその内容が半端なく怖い(これが「怪談」なのかしら)。じっと見て聞いてるだけで「私とは誰なのか」「自分とは何なのか」と実存を揺さぶられる恐怖。なるほどこれがJホラーなのかと震えさせていただきました。
『辰巳』の森田想ちゃんとかマイアイドル藤井隆とか、キャスティングもナイス。主演の杉田雷麟くんと平井亜門くん(塾講師のリアル)が、友だちなのか恋人なのか決めつけてない設定も近年のホラー映画におけるジェンダー問題に対して新しいJホラーって感じでよかったです。