『名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN』
思えば公開時『ウォーク・ザ・ライン』(06年)も実在するミュージシャンの伝記映画だなんてことも知らずに見て感動してたし、ボブ・ディランはもちろん名前くらいは知ってるけどマジで「よく行く飲み屋でいつも流れてる、ノーベル文学賞獲ったすごいミュージシャン」くらいの認識しかない不届き者の私が見ても「マンゴールドさんすげー!」と叫びたくなった、ジェームズ・マンゴールド監督『名もなき者』。
ボブ・ディランを知らなくても、この脚本構成編集と役者の完璧さで最後のライブシーンにはつい感涙。基本ほとんど喋らないシャラメ演じるボブだけど、そのときどきに歌われる歌の歌詞が十分にすべてを語ってるからつい真剣に聴いてしまう。いやあ素晴らしかった。
もちろんこの知識量だから、途中でぬるっとバンドに参加してるミュージシャンたちのことも全然わかってないけど、でも自由でいい感じってのは伝わったし(あとで調べてらめっちゃすごい人たちなのね…)、エル・ファニングちゃんは可哀想やけどこの映画を見る限りモニカ・バルバロ演じる相手の女は嫌な奴なので気にすることはない。人気も才能もあるうえ人の男の才能まで欲しがるなんてロクでもない女やで。ジョーン・バエズさんごめんなさい。
しかしこのティモシー・シャラメはオスカーあげて欲しかったなあ(『ブルータリスト』見てないけど…)。ライブシーンを完璧に演じてるのはもちろん、常に誰かに見られる存在でありながら自分は黙るか歌うかタバコ吸うか、それだけで田舎から出てきた青年がNYでボブ・ディランになっていく、そんな人物をこんな風に表現するとは、少年っぽさが消えていつのまにか立派な俳優になっていたのね。途中古畑みたいなってたけど、このシャラメにはほんとに感動した。
お久しぶりな気がするエドワード・ノートン、すっかり穏やかないいおじさんで最後はちょっと可哀想やったけど仲直りしたっぽくて安心よ。その妻演じる初音映莉子さん、存じ上げなかったけどめっちゃかっこよかった。
鑑賞後にはさすがに本物も聴きたくなってSpotifyで「ボブ・ディラン」を検索するとさすがにCD出し過ぎでびびる。この映画がそのほんの一部なのもびびる。