『少年と犬』
猫ちゃんが好きやけどワンちゃんも好き(特に大型犬)なので、瀬々敬久監督『少年と犬』を見たんですがね。
『ラーゲリより愛を込めて』(22年)の製作陣が再集結したという今作、『ラーゲリ…』はZ監督の真面目さと誠実さが全面に出た好感の持てる映画だったと思うんだけど、今回は本当に、Zが自分の撮りたいように撮れないのっぴきならない事情があったのだろうか…と勘繰ってしまうほど、演出脚本撮影役者のすべてが上手くいってない、まともな演出の跡が見当たらないような作品でちょっと呆然としてしまった。
一頭のシェパード(ミックス?)犬「多聞」が大切な人に会うために岩手県釜石市から熊本県まで横断する中で出会った人たちとの心の交流を描く感動物語。それの、基本的にずっと画面が明る過ぎるとかハッとするようなカットがマジでひとつもないとか、もしくは雪が残る屋外で薄着で結婚パーティーする違和感とか聞いてられないAKBとか細かいツッコミを全部差し引いても、いくらなんでもご都合主義が過ぎる脚本が酷い。ネタバレになるかもやけど、後半映画が絶対やったらあかんことをしてしまっていてる。原作の感動エピソードを詰め込む方法がこれしか思いつかなかったのなら、いっそ主人公を死なせない(しかもあんなマヌケな死に方で…)って変更した方が絶対よかったんじゃないか。ある種のファンタジーだとしても、誰も知り得ない犬の単独行動を幽霊が全部見ていて後から説明してくれるってさすがに脚本家の仕事がマズいと感じざるを得なかったでござる。こんなことが成立するならマジでなんでも有りやん。
あとやっぱりZ監督は登場する人物全員に何かを負わせ過ぎ。主要キャラたちの暗い事情の大渋滞に今回も胸焼け。短編集ならまだ読めるんだけど。
主演の若い男女(高橋文哉くんと西野七瀬クン)は映画が終わった瞬間顔も思い出せないくらいの薄印象しかないのだが(ごめんね、でももうちょっと頑張ってほしかった)、多聞を演じるシェパード犬のさくらちゃん(クレジットを見る限り一匹で頑張ったの!?)の名演たるや本当に信じられないレベル。多聞の凛々しいワンショットは文句なしに素晴らしかったです(映画の登場人物くらい多聞にこの映画自体が救われているのでは…)。犬は偉大だ。
そして最後にひとつ、これは原作通りだし現実にもそういう人たちが存在していることは重々承知しているけど、でも映画に登場する被災地を襲う強盗団が外国人(中東系)だったこと、関東大震災における朝鮮人虐殺などを問題として過去作で扱っているZ監督には一番やってほしくなかったなと一人静かにまあまあショックでしたとさ。