石井隆×3
私の三十年近い映画人生の中で間違いなく一番の恐怖体験は、高二のとき、大阪難波は千日前のマクドの地下にあったちっちゃくて汚い映画館にレイトショー上映の『GONIN2』(96年)を見に行ったら、モギリは超おじい、客は私一人、始まった映画はめちゃくちゃに怖い。見てる間中「あのおじいがキチガイヤクザやったらどうしよう…」とガクブルしながら途中で逃げるタイミングをはかりつつ、でも最後まで頑張ったことです。喜多嶋舞のレイプシーンは怖過ぎて本気で泣いてたと思う。
「石井隆没後3年初期傑作4本デジタルリマスター上映」、『GONIN』(95年)以前の監督作をVHSでしか見たことなかった私のためのような企画。縦書き斜めフォントと日本ヘラルド映画のロゴがノスタルジー。
『天使のはらわた 赤い閃光』は、石井隆にしては珍しくちゃんと犯人を探すミステリー感のあるストーリー、と思いきやラストはまごうことなき石井隆でにっこり。今まで映画における廃工場といえば黒沢清と思っていたが、石井隆かもしれない。この工場はマジで怖いから。しかし劇中ずっと流れてる謎の民族音楽みたいな曲はなんだったんだ。
『夜がまた来る』、完全なるトラウマ映画。映画開始10分後、喪服姿の夏川結衣が夫の遺骨が散らばるリビングの床の上でチンピラたちにレイプされるシーンは十代の小娘には衝撃が強過ぎた。初めて「映画は恐ろしい…」と心底感じた瞬間。そのあとの、ヤクザにキメセクを強要される夏川結衣、場末のスナックでシャブ中売春婦になる夏川結衣、土砂降りの中ビニール傘で喉を刺される椎名桔平(刺したあと傘を開く根津甚八)など、自分でも意外なほど明確に覚えているシーンが多く、そのどれもこれも書くのもおぞましいほどの内容なのにこの人物たちがどこに行き着くのか、じっと目が離せない。そしてこの映画の夏川結衣は本当ーーーに素晴らしい。
しかし石井監督作品の中で一番最初に見て大好きなはずの『ヌードの夜』が全然覚えてなかった…。そんな陰惨なシーンはなくひたすらかっこいいのに、余貴美子の運命が泣ける。椎名桔平の誕生が嬉しい。
と、この3本を見ただけでも、人間の丸出しの欲望や破綻した行動のアクション、シャブとセックスと暴力に満ち満ちた濃厚さ、男に暴行され傷つけられた名美たちの復讐と愛、ドラマチックなストップモーションと、最近流行りのツルツルした日本映画とは真逆の手触りに心満たされる。余は満足じゃ。