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11.04

『秒速5センチメートル』

「秒速5センチメートル」で「落ちる桜の花びら」というまさに「あわれで美しい」としか言いようのないタイトルを今まさにわざわざ実写映画化するとなるとため息をつきながら見に行くしかなかった、奥山由之監督『秒速5センチメートル』。ほぼ満席のお客さんの中で我々が最高齢だったんじゃないでしょうか。
全体的に「ポカリスエットのCM春夏秋冬編」みたいだなーと思いながら見たけどそういえば監督の弟さんが撮った映画はシチューのCMみたいやったしさすが血は争えんなーなんて言ってる場合じゃなくて、これが最近の若者たちにとっての「映画」なのだという現実を突きつけられて、結構くらった。これは中々厳しいぞ、覚悟が甘かった。
まあとにかく121分間全編キラキラと美しい映像の中やたらとクネクネする男女がひたすら喪失している、その中でも一番のクライマックスである「中学生の男女が深夜降りしきる雪の中桜の木の前で見つめ合い、キスをする」という、最早ここまでやられたら何が「美しい」なのかわからなくなってくるようなシーンで、46歳女性は思春期男子の性欲が心配になるんだけれど、もちろん主人公の美しい過去にはそんなものは存在しない。
奥山監督のビジュアルは松村北斗演じる主人公と、薄目で見れば区別がつかないほど似ている(特徴的な髪型が)。ということは多分にこの主人公に監督自身が投影されているんだろう。その「ほぼ自分自身」の繊細な過去に性欲なんてマッチョで俗物的なものは存在しないという歴史改ざんを行ってまで美化された「美しい自画像」を描こうとするこの同時多発的欲望ここに極まれり、って感じでもう特に言うことも無し(川村元気ですらすでに別の場所に行っているのに!)。はあ。
ただ、この映画においては同時代に松村北斗という俳優が存在することに心から感謝するべき。北斗の、あの黙って遠くを見つめてるだけで観客に想像力をかきたてさせる力はちょっと凄い。
ついでに、いくら舞台が91年だとて、2025年に三十代前半の若者が撮った映画の中で小学生の男女がお互いのことを女子は「貴樹くん」と呼び男子は「明里」と呼び捨てにする感覚にマジでずっこけた。キモいよ。