『ただ、やるべきことを』
誰が監督かどんな内容かもまったく知らずなんとなく見に行ったパク・ホンジュン監督『ただ、やるべきことを』、お客さん3人しか入ってなかったけどそんなん勿体なさ過ぎるくらい良い映画だったからみんなもっと見た方がいい。
釜山の造船会社で働く主人公のジュニは上司とも良好な関係の30前後のサラリーマン、学生時代から付き合ってる婚約者は妊娠中で、結婚生活に向けてローンでマンションを購入済み。そんな大変だけど幸せな日々は、人事部に配置換えされ会社の大規模なリストラを担当することになったことで、何かが壊れていく。
ジュニ演じる俳優さんがたくろう(M1王者)の赤木に似てることからもわかるように、とにかく一貫して地味。韓国にはリストラに抗う労働者を描く傑作映画プ・ジヨン監督『明日へ』(14年)があるけれど、今作は人々が連帯してデモを行うエモーションではなく、顔も知らない相手を一方的にリストラリストに入れる彼もまた労働者であり、彼は彼で心から自分の仕事を恥じている、その姿を静かに見守る。
酷い仕事だからって特定の誰かを責めれば解決するわけではない。そんな中で、主人公がただ、やるべきことをやる姿をとにかく具体的に、監督としての色気ゼロの演出で、観客の感情に頼ることなくこの映画自体が「社会に対して映画としてやるべきこと」を黙々とやっている、その頼もしい力強さに驚く。こんなの見ちゃうと最近のフワフワした日本映画の情けなさがマジ辛い。
人事部としてリストラに関わったのは監督の実体験だそうだが、ここに登場する女性社員の描き方も完璧で、本当に胸が苦しくなるんだけど、でもやるべきことをやるしかない立場の中で私たちが本当にやるべきことへの希望もちゃんと感じさせる。
新人監督への助成金をベースに、かなり限られた予算とロケ地で撮影してるんだろうけど、パンフを読むとめちゃくちゃ細かく絵コンテが描き込まれていて、本当はもっと色んなことができる監督なんだろう。ラストシーンのロングショットくらいもっと好きにやったらええんやで!と普段とは真逆の気持ちで応援。次回作も期待。

