『黒の牛』
午年に牛映画かなんか面白そうやなくらいの興味で、ふらっと蔦哲一郎監督『黒の牛』を見に行ってみたらなんかすごい映画でびっくりした。冒頭の「禅に伝わる「十牛図」から着想を得た」という説明にスピった映画かなと思いかけたんだけど、そうじゃなくてよかった。ラストは無を通り越して見たことのない世界行ってたけど。
今は昔、山から降りてきた男は村の言葉も文化もわからないまま老婆と暮らし始め、牛と出会って、畑を耕し、牛を愛でて、やがて死ぬ。この一言も話さない男の役を演じているのがリー・カンションで、リーさんのダイアン津田にも似たビジュアルのせいか、35ミリフィルムで撮られたモノクロ画面に映る自然の風景や激しい雨や田中泯は荘厳で神聖なはずなのに映画全体がどこかファニーな空気が漂って、でもスクリーンに映ってるものはすごい迫力で、その絶妙なバランスが面白い。この不思議なバランスの面白さは映画館で見た方がいいと思う。
ゴツゴツした岩山をひとり歩く牛、追いかける男。興奮し出した牛にもめげず男が近づく様子は普通に「牛が本気出して暴れたらどうするんだろう」と超ハラハラしながら見たけど、この牛(ふくよちゃん)は相当演技派、映画全編に渡ってこれしかないという動きをしていて感動。真っ黒の牛は美しい。
35ミリフィルム、ラストには日本初の70ミリフィルムまで使って、どこから探してきたんだと驚くようなロケ地で、大雨やら大雪やら牛やらと超大変そうなものばかり扱った映画を作ったのが80年代生まれの監督やスタッフさんということで、頼もしくて嬉しい。
老婆が死んだあとあの家の周りで楽器を演奏して踊る人たちが現れ、それを見た男が多分生まれて初めて音楽に合わせて体を動かす引きのシーンが凄くいいなと思ったんだけどパンフレットの決定稿にはなくて、私の妄想だったのかしら…。

